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第1回「校正」の意味と定義

こんにちは。

皆様は『校正』という言葉をご存知ですよね。世間一般的には、文章の校正で使われるのが一番多い 使われ方かなと思います。出版物やwordを使用していると、よく出てきます。「文章校正」「色合いの校正」などという使われ方をします。

弊社は計測器メーカーです。計測器・測定器の分野でも『校正』を使います。「点検校正」「校正証明書」「校正機関」「校正機器」などです。弊社には、校正室という専門部署もあります。

マイナーな使われ方としては、生物学上での「校正」というのもあります。こちらはかなり珍しいというか、弊社が言うのもなんですが、ニッチな使われ方です。DNAの複製、免疫の特異性の過程において発生する校正のことですが、このコラムでは触れません。

以上の、一般的な「校正」と工業的な『校正』、生物学的な「校正」と3つの使われ方をしています。工業的に言うと、「JIS Z 8103:2019」の計測用語にある『校正』が、基になろうかと思います。この2019年に改版された JIS での『校正』が分かりにくく、あまり浸透していません。今回から約10回かけて、工業的な『校正』と、その取り巻く諸々についてコラムとして書いていこうと思います。

自己紹介遅れました、株式会社コスモ計器の私が井上朗です。乱文で申し訳ございませんが、少しでも 『校正』について皆様に知って頂ければ幸甚でございます。

それぞれの意味と定義

校正のうち、一般的なものについて、意味と定義を調べてみました。

こう-せい〔カウ-〕【校正】

[名](スル)

  1. 文字・文章を比べ合わせ、誤りを正すこと。校合(きょうごう)。
  2. 印刷物の仮刷りと原稿を照合し、誤植や体裁の誤りを正すこと。「ゲラ刷りを―する」
  3. 測定器が示す値と真の値の関係を求め、目盛の補正などを行うこと。
    国家標準で定められた標準器や、あらかじめ物理的量や化学的な純度などがわかっている標準試料を用いて校正する。
    較正。検定。キャリブレーション。
  4. ※引用出典:デジタル大辞泉(小学館)

校正(こうせい、英語: proofreading)は、
印刷物などの字句や内容、体裁、色彩の誤りや不具合を、あらかじめ修正すること。校合(きょうごう)ともいう。

出版にあたっては、印刷に先立って仮刷りを行い、それと原稿の内容を突き合わせ、誤植や体裁上の不備を正す。文字や数字ばかりでなく、デザインや発色の確認も行い、特に発色の確認を行う校正を色校正(色校)という。

かつて「校正」の語は古典作品の写本(原文が存在している場合は原文)と別の写本(異本)を照合する「校訂」の意味でも使われた。
なお、修正後の原稿を二校と呼ぶことがあるが、二稿という語は誤りであるので注意を要する。*引用1

較正(こうせい、calibration)は、
測定器の読み(出力)と、入力または測定の対象となる値との関係を比較する作業である。較正が本来の表記だが、「較」(コウ)は常用漢字の音訓表にない読みのため、校正(こうせい)またはこう正と表記することもある。「かくせい」とは読まない。

計量法に規定する「計量器の校正」の定義は、「その計量器の表示する物象の状態の量と(中略)標準となる特定の物象の状態の量との差を測定することをいう」とされており、その差を最小とするための調整は含んでいない(同法第2条 第7項)
こう正・校正の英訳はキャリブレーション(calibration)が用いられるが、calibrationは「調整」(アジャスティング: adjusting)を含むことが多い。*引用2

では、定義はどうでしょうか。

文章系で使われる『校正』には、共通の定義というのはありません。辞書に載っている意味がそのまま定義として認識され、使用されています。『校閲』と『校正』の違いについては明確にされているものの、定義されているとは言い難いです。
まあ、各辞書には多少の違いがあるもの、共通の意味合いが記載されているのと、出版業界では古くから使用されているため、定義付けする必要が無かったのだと思います。

次に、計量計測系の『校正』についてです。

これは、非常にややこしいです。産業工業界では、様々な規格があり、また、世界的にみるとさらに広がりをみせます。
それぞれの分野で用語の定義がされており、微妙な違いがあります。また、随時更新もされており、頭が痛いところです。
弊社は、空圧系計測器メーカーですので、その分野での『校正』の定義を見てみましょう。

まず、やはり ISO です。
ISO/IEC GUIDE99:2007では、次のように定義されています。原文を見てみましょう。。

2.39︓operation that, under specified conditions, in a first step, establishes a relation between the quantity values with measurement uncertainties provided by measurement standards and corresponding indications with associated measurement uncertainties and, in a second step, uses this information to establish a relation for obtaining a measurement result from an indication.

Notes
NOTE 1 A calibration may be expressed by a statement, calibration function, calibration diagram, calibration curve, or calibration table. In some cases, it may consist of an additive or multiplicative correction of the indication with associated measurement uncertainty.
NOTE 2 Calibration should not be confused with adjustment of a measuring system, often mistakenly called “self-calibration”, nor with verification of calibration.
NOTE 3 Often, the first step alone in the above definition is perceived as being calibration.

https://jcgm.bipm.org/vim/en/2.39.html より

ISO/IEC Guide 99:2007は、『国際計量計測用語-基本及び一般概念並びに関連用語』という別名があります。これは JCGMのVIMというワーキンググループが定めた文書の3版なのでVIM3とも言われている文書が基になっています。
JCGM、VIMについては、次回詳しく説明したいと思います。さて、訳したいところですが、実はJIS規格と全く同じなので、そちらを見てみましょう。
JISでは、『JIS Z 8103:2019 計測用語』(以下 8103)内 3.4 トレーサビリティ及び測定標準の401に『校正』の項目があります。
なお、2018 年に廃止されたTS Z 0032:2012内にも『校正』がありましたが、現在はJIS Z 8103:2019 にのみ、計量計測の『校正』が定義されています。(原本は読点『,』を採用していますが、 便宜上『、』を使用します。)

401 校正(calibration)

指定の条件下において、第一段階で、測定標準により提供される測定不確かさを伴う量の値と、付随した測定不確かさを伴う当該指示値との関係を確立し、第二段階で、この情報を用いて指示値から測定結果を得るための関係を確立する操作。

■注記1
校正は、表明(statement)、校正関数、校正曲線又は校正表の形で表すことがある。場合によっては、不確かさを伴う、指示値の加算又は乗算の補正で構成することがある。

■注記2
校正は、“自己校正(self-calibration)”と呼ばれる測定システムの調整(adjustment)、又は校正の検証(verification)と混同すべきではない。

■注記3
上記の定義の第一段階だけで校正と認識していることがある。
*JIS Z 8103:2019 より

と定義されています。非常に分かりづらいですね。第1段階と第2段階に分かれているのが、原因と思われます。内容の解説は次回以降に行います。

工業的に『校正』というと、基準となる値と比較して、予め決めた精度外なら調整を行って、それを証明書として記録する、というのが一般的な概念かと思います。『較べて正す』という事ですね。弊社へのご依頼でも、この意味合いでのご依頼が多いです。しかし、定義から言うとそれは間違いです。

なお弊社では、JIS や VIM で定義された『校正』を実施する場合を除いて、お客様とのやり取りや取扱説明書では一般的概念の『校正』を使用しています。以前の ISO と JIS で定義されていた意味合いです。(お客様がどちらを求めているかを確認させて頂いておりますが。)

このコラムでは何回かに分けて『校正』について、徒然なるままに記してみたいと思います。
ではまた、次回の講釈で。

間違いや誤解があれば、ご遠慮なくご指摘ください。
akira.inoue@cosmo-kco.jp

*引用

*引用1
『校正』 「ウィキペディア (Wikipedia): フリー百科事典」(最終更新 2023 年 3 月 7 日 (火) 01:44 (日時は個人設定で未設定ならば UTC)。の版)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A0%A1%E6%AD%A3

*引用2
『較正』 「ウィキペディア (Wikipedia): フリー百科事典」(最終更新 2023 年 11 月 22 日 (水) 21:27 (日時は個人設定で未設定ならば UTC)。の版)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%BC%83%E6%AD%A3