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第4回 ISO 9001と「校正」後編

こんにちは。複雑に入り組んだ『校正』用語に鋭いメスを入れ、『校正』の謎や疑問をそれなりに究明する、このコラム。私が担当の井上朗です。
第 4 回です。前回の続きとなります。よろしくお願いいたします。

さて今回は、『校正』の位置づけが大きく変わった ISO 9001︓2015 についての説明からです。
どう変わったのか、さっそく見てみましょう。

(出典︓JIS Q 9001︓2015-ISO 9001︓2015 の IDT)

7 支援
7.1 資源
7.1.1 一般 組織は,品質マネジメントシステムの確立,実施,維持及び継続的改善に必要な資源を明確にし,提供しなければならない。
組織は,次の事項を考慮しなければならない。

a) 既存の内部資源の実現能力及び制約
b) 外部提供者から取得する必要があるもの
(省略)

7.1.5 監視及び測定のための資源
7.1.5.1 一般
要求事項に対する製品及びサービスの適合を検証するために監視又は測定を用いる場合,組織は,結果が妥当で信頼できるものであることを確実にするために必要な資源を明確にし,提供しなければならない。 組織は,用意した資源が次の事項を満たすことを確実にしなければならない。

a) 実施する特定の種類の監視及び測定活動に対して適切である。
b) その目的に継続して合致することを確実にするために維持されている。
組織は,監視及び測定のための資源が目的と合致している証拠として,適切な文書化した情報を保持しなければならない。

(出典︓JIS Q 9001︓2015-ISO 9001︓2015 の IDT)

7.1.5.2 測定のトレーサビリティ
測定のトレーサビリティが要求事項となっている場合,又は組織がそれを測定結果の妥当性に信頼を与えるための不可欠な要素とみなす場合には,測定機器は,次の事項を満たさなければならない。

a) 定められた間隔で又は使用前に,国際計量標準又は国家計量標準に対してトレーサブルである計量標準に照らして校正若しくは検証,又はそれらの両方を行う。そのような標準が存在しない場合には,校正又は検証に用いたよりどころを,文書化した情報として保持する。
b) それらの状態を明確にするために識別を行う。
c) 校正の状態及びそれ以降の測定結果が無効になってしまうような調整,損傷又は劣化から保護する。 測定機器が意図した目的に適していないことが判明した場合,組織は,それまでに測定した結果の妥当性を損なうものであるか否かを明確にし,必要に応じて,適切な処置をとらなければならない。

ISO 9001︓2015 自体は、PDCA サイクルとリスク管理を強く前面に押し出しているものとなっています。
この辺りの説明はたくさんの書籍やネットに出ていますので、省きます。

それまで製品実現の章にあったものが、支援の章になりました。8 章の運用と合わせて、PDCA の Do にあたります。また、支援の資源に分類されています。内容的には、一見大きな変化はなさそうですが、そうではありません。一般とトレーサビリティにわかれ、管理についての記述が少なくなり、より客観性を求められています。要求事項に対し、それを満たす資源を明確にし、提供し、それを確実にしなければならいのです。つまり第三者が見ても(提供)分かるよう(明確)にし、それを維持(確実に)しなければならないという、厳しいものです。その資源には、もちろん測定器も含まれますし、それを扱う人も手順も含まれます。そして、『測定結果の妥当性に信頼を与えるための不可欠な要素とみなす場合』と表現されています。信頼を与えるには客観性が必要ですので、それを強く求めています。また、トレーサビリティも必要で、2 パターンあります。

  1. 測定のトレーサビリティが要求事項となっている場合
  2. 組織がそれ(測定のトレーサビリティ)を測定結果の妥当性に信頼を与えるための不可欠な要素とみなす場合

2000 年版と同様、ISO 9000︓2015 が ISO 9001︓2015 の用語の定義となっていますので、そちらを見てみますと、トレーサビリティはこう定義されています。なお、IDT 規格である、JIS Q 9000︓2015 から出典引用しています。

注記 ISO/TC 176 によって作成された QMS 規格に頻繁に用いられ,かつ,特定の辞書的な意味をもつ幾つかの追加的な言葉の手引は,次の URL に示された用語集にある。
http://www.iso.org/iso/03̲ terminology̲ used̲ in̲ iso̲ 9000̲ family.pdf

(出典︓JIS Q 9000︓2015)

3.6.13
トレーサビリティ(traceability)
対象(3.6.1)の履歴,適用又は所在を追跡できること。

■注記
1 製品(3.7.6)又はサービス(3.7.7)に関しては,トレーサビリティは,次のようなものに関連することがある。

  • 材料及び部品の源
  • 処理の履歴
  • 製品又はサービスの提供後の分布及び所在

■注記 2
計量計測の分野においては,ISO/IEC Guide 99 に記載する定義が受け入れられている。

また、測定についてはこう定義されています。(出典︓JIS Q 9000︓2015)

3.11.4
測定(measurement)
値を確定するプロセス(3.4.1)。

■注記 1
JIS Z 8101-2 によれば,確定される値は,一般に,量の値である。

■注記 2
この用語及び定義は,ISO/IEC 専門業務用指針−第 1 部︓統合版 ISO 補足指針の附属書 SL に示された ISO マネジメントシステム規格の共通用語及び中核となる定義の一つを成す。
元の定義にない注記 1 を追加した。

ですので、JIS Q 9001︓2015 の 7.1.5.2 にある『測定のトレーサビリティ』は、この 2 つを繋げてこうなります。
『測定のトレーサビリティ』とは、『「量の値を確定するプロセス」(対象)の履歴,適用又は所在を追跡できること』と定義されます。これを満たせばよいのです。(注記はあくまでも注記であり、参考・補足情報)
実は、『校正』は ISO 9000︓2015 に定義されていません。ですが、ISO 9000︓2015 の序文の注記にはこう記載されています。
(出典︓JIS Q 9000︓2015)

このリンクですが、今は変更されています。新しいリンクは次の通りです。
https://www.iso.org/files/live/sites/isoorg/files/standards/docs/en/terminology-ISO9000-family.pdf
これは所謂、「用語集」となります。ISO 9000︓2015 及び ISO 9001︓2015 で使用されている単語、用語に意味を提供しています。これは、定義ではありません。また、『注記』も定義ではありません。そのせいで非常にややこしいことになっていますが、これを詳らかにするのは控えましょう。曖昧なままが良いこともあります。どうしても知りたいという方は、お問合せください。ご説明いたします。

さて、ISO 9001︓2015 で使用されている『校正』は、「用語集」によると VIM3︓2008 での意味となります。VIM ですが、VIM3 で『校正』の意味が変更されました。VIM3 は 1 回目にご紹介いたしました、ISO/IECGuide 99︓2007 とほぼ同じです。ISO/IEC Guide 99︓2007 を JIS に落とし込んだのが、TS Z 0032︓2012 でした。これが 2018 年に廃止され、新たに JIS Z 8103︓2019 となりましたので、こちらをご紹介いたします。
(出典︓JIS Z 8103︓2019)

401 校正 (calibration 2.39)

指定の条件下において、第一段階で、測定標準により提供される測定不確かさを伴う量の値とそれに対応する指示値との不確かさを伴う関係を確立し、第二段階で、この情報を用いて指示値から測定結果を得るための関係を確立する操作。

■注記 1
校正は、表明(statement)、校正関数、校正曲線又は校正表の形で表すことがある。場合によっては、不確かさを伴う、指示値の加算又は乗算の補正で構成することがある。

■注記 2
校 正 は、“ 自己校正( self-calibration ) ” と 呼 ばれる 測 定 システム の 調 整(adjustment)、又は校正の検証(verification)と混同すべきではない。

■注記 3
上記の定義の第一段階だけで校正と認識していることがある。

ISO 9001︓2015 の『校正』は、この意味で使用されています。問題は、原文は VIM3 の用語を使用していますが、日本では 2015 年の段階では VIM2 の用語のまま認識されているという所です。2012 年に VIM3 のIDT 規格である TS Z 0032︓2012 が発表されたのですが、TS 規格だったこともあり、少なくともこの部分に関してはあまり浸透せず、多くの方が VIM2(JIS Z 8103︓2000)の用語認識のままだと思います。この TS 規格は 2018 年に廃止され、それを JIS Z 8103︓2019 で JIS 規格が引き継ぎました。
ここで『校正』には、『不確かさ』が必要だと、明確に定義されました。この意味の深堀は次回以降に行うとして、簡単にご説明いたしますと、『校正』には『不確かさ』が必須で、さらにその『不確かさ』を用いて測定しなさい、という事です。『不確かさ』を用いて、実際に測定器を使用する所までが『校正』なのです。なんとも厳しい内容 です。内容も 2 段階で、非常に分かりにくいかと思います。ISO 9001︓1987 に出て、2000 年版で消えていた『不確かさ』が、出てきました。本文には出てきませんが、『校正』に含まれる形です。
不確かさ… ああ、面倒くさい…
おっと、心の声が漏れてしまいました。リークテストメーカーにあるまじき行為。申し訳ございません。VIM3とJIS Z 8103︓2019 にはっきりと『校正』には『不確かさ』が必要と記載されたことで、何が変わったのかと言うと、ISO 9001 でこれまで使用し、また適用していた VIM2 の『校正』が使えなくなりました。厳密にいうと『不確かさ』の無い、値の比較だけの行為は『校正』とは呼べなくなり、これまでの『校正』は『検証』の一部となりました。というか含めざるを得なくなったのです。なお、ISO 9000︓2015 に『検証』はこう定義されています。

(出典︓JIS Q 9001︓2015)

3.8.12
検証(verification)
客観的証拠(3.8.3)を提示することによって,規定要求事項(3.6.4)が満たされていることを確認すること。

■注記 1
検証のために必要な客観的証拠は,検査(3.11.7)の結果,又は別法による計算の実施若しくは文書(3.8.5)のレビューのような他の形の確定(3.11.1)の結果であることがある。

■注記 2
検証のために行われる活動は,適格性プロセス(3.4.1)と呼ばれることがある。

■注記 3
“検証済み”という言葉は,検証が済んでいる状態を示すために用いられる

測定器に関してだけで言いますと、『校正』と混同してはいけません。要求事項を満たしているかどうかが必要ですので、ただのデータの比較だけでは検証とはなりません。所謂、精度が必要で、それによって合否を判断する必要があります。ですので、検査や点検が必要となります。繰り返しますが、ただのデータの比較では、『校正』にも『検証』にもならず、不適合となる可能性があります。データの比較をして、それを精度などで合否の判断をして合格した場合のみ、要求事項を満たしていると言えます。不合格では、『検証』にはならず、ISO 9001 の不適合となってしまう可能性が高いのです。ただし、『校正』を行った場合は別です。『校正』には合否の概念がなく、それだけで 7.1.5.2 の要求を満たすためです。
ISO 9001︓2015の7.1.5.2 のa)では、『校正若しくは検証、又はそれら両方』について記載されています。
また、『定められた間隔で又は使用前に』とありますので、日付または期間が分かるようにする事が必要です。b)ではその識別についてです。これは、ラベルなどで『校正若しくは検証、又はそれら両方』が実施されたことをはっきりとわかる形で示すことを求めています。c)では、(2000 版からも記載されていましたが、)測定器を安易 に調整できないようにする事や破損や劣化防止をする事を求めています。当たり前と言えば当たり前なのですが、わざわざ定義しているところがミソで、ちゃんと対策しなさいということでしょう。さらに計測器が不合格や不適切な使用方法だった場合、それまでの測定結果を改めて評価しなければなりません。
その為、測定時のデータを保存することを求められることがあります。抜き取り検査や評価検査なら保存も楽なのですが、大量生産品となると、大量の測定データの保存や生産品との紐付けなど、ハードルがグッと上がります。ですので、使用前の検証(検査・点検)が重要となります。具体的には日常点検です。これは客観性を もって行うことが測定値の信頼性を高めることになります。弊社はリークテストメーカーですので、漏れ検査に限って言えば、1 日 1 回以上の日常点検を推奨しています。あるユーザー様では全ての測定の前にデータの検証を行っている場合もありますが、生産数と生産品の価値にもよるかと思います。1 日 1 回の点検を行っていれば、最悪の場合、1 日分の損害で済みますが、全く行っていない場合などは…、考えるだけで恐ろしいですね。
さて、ここまで長々と ISO 9001 での『校正』について書いてきましたが、話がアチコチ行ってしまったので、少しまとめてみます。

バージョン 『校正』の位置づけ 『校正』の意味
ISO 9001︓1987( JIS Z 9901 ︓ 1991) 品質システム要求事項のひとつ。
細かい管理項目が定義されている。
なお、装置には『不確かさ』が必要とされた。
国際または国家計量標準へのトレーサビリティが必要。
VIM1:1984 を参照。
JIS では JIS Z 8103-1978、JIS Z 8103︓1990。
(真値である)標準器との値の比較の意味。
ISO 9001︓1994
ISO 9001︓2000 製品実現のひとつ。
『不確かさ』は削除された。
測定プロセスの確立。
測定値の正当性を保証するために、『校正』又は検証をおこなう。
国際または国家計量標準へのトレーサビリティが必要。
測定プロセスへの参考として、ISO 10012-1 とISO 10012-2 を参照させている。
VIM2︓1993 を参照。
JIS では JIS Z 8103︓2000。
標準器との値の比較の意味。
ISO 9001︓2008 製品実現のひとつ。
2000年版とあまり違いはないが、『すること』から『しなければならない』と日本語上の強い表現へと変わった。
国際または国家計量標準へのトレーサビリティが必要。
ISO 10012 に関する記述が削除された。
ISO 9001︓2015 支援の章。資源のひとつ。
信頼性を高めるため、客観性を強く求めている。
国際または国家計量標準へのトレーサビリティが必要。
VIM3︓2008 を参照。(用語集)
JIS では JIS Z 8103︓2019。不確かさが必須となった。不確かさを使って測定する。これまでの単純な値の比較の意味ではない。

2023 年 6 月現在は、ISO 9001:2015 が最新版ですので、『校正』は VIM3、又は JIS Z 8103︓2019を参照しています。ちなみに VIM4 が 2021 年 1 月 11 日 VIM 委員会で検討され、引き続き検討中ですので、そのうち更新されるかと思います(2023 年 7 月現在)。検討中なので確定ではありませんが、JCGMWG2-CD-02 で検索すると BIPM が変更内容をまとめてアップしていますので、見たい方はご確認ください。
Calibration は 2.39 項から 5.18 項に移る予定です。引用禁止文書ですので、こちらには記載しません。申し訳ございません。ご了承ください。内容的には、大きな変更はないと思います。いつ発行されるかは不明です。

長々と説明してまいりました、今回のコラムいかがだったでしょうか︖ISO 9001 での『校正』について色々調べてみました。分かりにくい箇所もあったかと思います。申し訳ございません。
次回は、VIM3『校正』の定義を深掘りしてみたいと思います。
ではまた、次回の講釈で

間違いや誤解があれば、ご遠慮なくご指摘ください。
akira.inoue@cosmo-kco.jp

●参考文献
https://www.wikiwand.com/ja/ISO_9000
ISO 9001︓1987
JIS Z 9901︓1991
国際計量用語集作業委員会報告書
JIS Z 8103-1978
ISO 9001︓2000
VIM2:1993
JIS Q 10012︓2011
ISO 9001︓2008
JIS Q 9001︓2015
JIS Z 8103︓2019
ISO 9000︓2015
ISO 9001︓2015
terminology-ISO9000-family
JIS 原案作成のための手引 【第 17 版】