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第5回 「校正」を深掘る

こんにちは。複雑に入り組んだ『校正』用語に鋭いメスを入れ、『校正』の謎や疑問をそれなりに究明する、このコラム。私が担当の井上朗です。
第 5 回です。第 3 回、第 4 回が長かったので、今回は短くしたいです。そう願っています。
今回は、いよいよ『校正』の定義を深掘りしてみたいと思います。よろしくお願い致します。
まずは、おさらい。前回もご覧頂いた JIS を見てみましょう。

(出典:JIS Z 8103:2019)

401 校正 (calibration 2.39)

指定の条件下において、第一段階で、測定標準により提供される測定不確かさを伴う量の値とそれに対応する指示値との不確かさを伴う関係を確立し、第二段階で、この情報を用いて指示値から測定結果を得るための関係を確立する操作。

■注記 1
校正は、表明(statement)、校正関数、校正曲線又は校正表の形で表すことがある。場合によっては、不確かさを伴う、指示値の加算又は乗算の補正で構成することがある。

■注記 2
校正は、“自己校正(self-calibration)”と呼ばれる測定システムの調整(adjustment)、又は校正の検証(verification)と混同すべきではない。

■注記 3
上記の定義の第一段階だけで校正と認識していることがある。

これが、VIM3:2008 や ISO/IEC Guide 99:2007 も同等の内容ですので、2023 年 8 月現在の『計量・計測の世界』での『校正』の定義です。
比較のため、2008 年までの『校正』の定義である、VIM2:1993 の定義を見てみましょう。

(出典:VIM2:1993)

校正(calibration)[6.11]

計器又は測定システムによって指示される量の値、若しくは,実量器又は標準物質によって表される値と、標準によって実現される対応する値との間の関係を、特定の条件下で確定する一連の作業。

■注 1
校正の結果は、指示に対する測定量の値の指定、又は、指示に関する補正の決定を可能にする。

■注 2
校正はまた影響量の効果のような他の計量特性を決定できる。

■注 3
校正の結果は、校正証明書(calibration certificate)又は校正成績書(calibration report)と呼ばれる文書に記録することがある。

一般的には、この VIM2 の『校正』の認識が今も主流となっていると言って良いかと思います。つまり、基準となる標準器と計器、測定機器との値の比較をする作業です。同一の物や電圧・電流などを測り、値の比較をして記録します。基準となる標準器などは、国際標準や国家標準へのトレスが取れていることが最低要求事項となるケースがほとんどです。計測する単位によっては、最終的な基準となるのは SI 単位となります。これもほとんどがそうなるかと思います。

SI 単位は、2019 年の国際単位系国際文書 第 9 版ですべての定義が、人工物を使った標準、物質の特性、測定方法のいずれにも関連付けられない形で確立されました。つまり、あらゆる単位の実現精度が、定義自体によって制約されず自然界の量子構造と人類の技術力のみによって制約されるようになりました。SI 単位は、7 つの基本単位と組立単位と SI 接頭語とがあり、これらの組み合わせで成り立っています。組立単位とは、基本単位のべき乗の積と定義されています。分かりづらいですね。後で説明します。SI 接頭語とは十進の倍量・分量を表す接頭語で、キロ k やメガ M、デシ d、センチ c などです。

弊社で関わりのある基本単位は質量の単位 kg です。時間の単位も使用しますが、これは一般的な使用方法ですので、省略いたします。キログラムですが、2019 年の改版で、それまで使用されていた国際キログラム原器が廃止となりました。元々は、1 キログラムは「水 1 リットルの質量」でしたが、水の体積が温度により変化し、また密度も気圧と温度で変化することが分かり、それらの問題を解決するため、国際キログラム原器が製作されました。その国際キログラム原器ですが、100 年間で 1 億分の 5kg(指紋 1 個分)変わった可能性がある事が分かり、「モノ」ではなく物理量で定義しようとなり、その後、約 130 年の仕事を終えて国際キログラム原器は廃止され、物理量定義に変更されました。

キログラムの新定義は、以下の通りです。
(出典:国際単位系国際文書 第 9 版:訳・監修:(国研)産業技術総合研究所 計量標準総合センター)

キログラム(記号は kg)は質量の SI 単位であり、プランク定数 h を単位 J s(kg m2s−1 に等しい)で表したときに、その数値を 6.62607015×10−34 と定めることによって定義される。ここで、メートルおよび秒は c および ∆νCs に関連して定義される。

まあ、よくわかりませんが(笑)、このように定められました。この定義を決めるのに日本の産業技術総合研究所が重要な役割を果たしました。詳しくは
https://unit.aist.go.jp/riem/mass-std/Kilogram.html
をご覧ください。

弊社で取り扱う主な単位は圧力単位ですが、SI の基本単位に圧力はなく、SI 組立単位に分類されていて、単位は Pa です。
SI 組立単位とは簡単に言うと、基本単位に指数を乗せて色々組み合わせで表す単位です。量は無数にあるため、SI 組立単位も無数にあります。SI 組立単位の中には、22 の固有の名前を持つものがあり、その中の一つがパスカル Pa です。Pa を基本単位では Pa = kg・m-1・s-2 となります。別の SI 組立単位を使うと、Pa = N/m2 表現されます。N はニュートンで、力の SI 組立単位です。
N を基本単位で表すと、N = kg・m・s-2 となります。固有名称を持つ 22 の単位のうち、17 が人名に由来しますので、人名由来の単位記号は大文字で始まることがルールとなっています。
ちなみにややこしいのですが、人名由来の単位記号を英語で綴る場合、例えば Pa を英語で書く場合は、文頭や表題のような大文字で書き始めるものを除き、Pascal ではなく、pascal と小文字で書き始めます。有名なフランスの物理学者であるブレーズ・パスカルさんを指すのではなく、単位記号であるということを示すためと思われます。
さらにややこしいのがセルシウス度℃ で、スウェーデンの天文学者アンデルス・セルシウスさんに因んだ SI 組立単位(℃ = K)ですが、単位記号はご存じの ℃ですが、これを英語で綴ると、degree Celsius と表記されます。また、電気抵抗の単位記号 Ω(オーム)ですが、オームの法則を発見したドイツの物理学者ゲオルグ・オームの名前をギリシャ文字表記した中から取って決められました。オームの頭文字 O(オー)が、数字の 0(ゼロ)と混同するためです。Ωはオメガとも読みます。(Wikipedia より)

閑話休題


さて、『校正』の話に戻ります。2023 年現在も、検査機器の『校正』というと VIM2 の認識が一般的であると説明いたしました。これは、全世界的にそうです。まあ、全世界を見てきたわけではございませんので(笑)、大袈裟ですが。というのも、2008 年の VIM3 で、注記 3 に『定義の第一段階だけで校正と認識していることがある。』とわざわざ記載していることから、少なくともISO が知られている範囲では、VIM2 の認識が一般的なのだろうと想像できます。それはやはりVIM3 の『校正』を理解するのが難しく、また実践するのも面倒で、さらに周知不足だからと思われます。2008 年から 15 年、JIS に記載されてから 4 年経ちましたが、まだまだ周知されているとは言えません。

その理解し難い新『校正』ですが、先にお示しした通り、2 段階に分かれています。それを解説していきたいと思います。

まず、『指定の条件下において』とあります。これは、『校正』を行うための条件で一般的には、温度・湿度・気圧・場所などの環境といえます。また、被校正品の指定された条件、例えば空気圧力 100 kPa 下での圧力校正・流量校正などです。つまり、『校正』を行うための種々の条件を指定せよとのことです。厳密にいうと、条件の指定されていない『校正』は無いという事です。何も条件がない場合は、条件がないということを指定する必要があります。実際はそこまで要求されることはありませんが。少なくとも、校正結果に影響を与えるような条件は指定する必要があるでしょう。

次に、『第一段階で、測定標準により提供される測定不確かさを伴う量の値とそれに対応する指示値との不確かさを伴う関係を確立し、』とあります。これの解説をする前にまず、『不確かさ』についてです。近年フューチャーされつつある『不確かさ』ですが、聞きなれない方も多いかと思います。完全に理解するのは非常に難解で、それを人に説明するのはさらに困難です。ここでは大きく話がずれていきますので、『不確かさ』についての詳細な説明は次回以降行います。頑張れ、未来の自分!とりあえずは、ばらつき具合を数値化したものとご理解ください。
話を戻します。『測定標準により提供される測定不確かさを伴う量の値』にです。『測定標準』というのは、JIS Z 8103:2019 にこうあります。少し長いです。

401 測定標準,エタロン (vim3:5.1)

何らかの参照基準として用いる,表記された量の値及びその不確かさをもつ,ある与えられた量の定義を現示したもの。

例 1 標準不確かさが 3 μg の 1 kg 質量標準
例 2 標準不確かさが 1 μΩ の 100 Ω 測定標準抵抗器
例 3 相対標準不確かさが 2×10-15 のセシウム周波数標準器
例 4 pH が 7.072 で,その標準不確かさが 0.006 の標準緩衝液
例 5 各溶液に対して認証値及び不確かさをもつヒト血清中のコルチゾール参照溶液の組
例 6 10 種の異なるタンパク質の一つ一つの質量濃度に対して,量の値及び不確かさを与える標準物質

■注記 1
“量の定義の現示”は,測定システム,実量器又は標準物質によって与えることができる。

■注記 2
測定標準は,他の同種の量に対して測定値及び不確かさを確定し,それによって,他の測定標準,測定器又は測定システムの校正を通して,トレーサビリティを確立する際の参照基準としてしばしば用いられる。

■注記 3
“現示(realization)”という用語は,ここでは最も一般的な意味で用いている。これは“現示”の三つの手順を示している。第一の手順は,測定単位の定義からの物理的実現であり,“厳密な意味(sensu stricto)”での現示である。第二の手順は,測定単位の定義からの現示ではなく,物理現象に基づいた再現性の高い測定標準を組み立てることで,例えば,長さ(メートル)の測定標準を確立するための周波数安定化レーザ,電圧(ボルト)確立のためのジョセフソン効果,又は電気抵抗(オーム)確立のための量子ホール効果の使用などの場合にみられる。これは“再現(reproduction)”と呼ばれている。第三の手順は,実量器を測定標準として採用することで,例えば,1 kg 測定標準の場合がある。

■注記 4
測定標準に付随する標準不確かさは,常に,その測定標準を用いて得られる測定結果での合成標準不確かさ(ISO/IEC Guide 98-3:2008 の 2.3.4 参照)の一成分である。この成分は,合成標準不確かさの他の成分と比べると小さいことが多い。

■注記 5
量の値及び不確かさは,測定標準を用いた時点で決定する。

■注記 6
同じ又は異なる種類の幾つかの量を,一般に測定標準とも呼ばれる一つの装置で実現することもある。

■注記 7
科学技術分野では,英語の用語“標準(standard)”は少なくとも二つの異なる意味をもつ。一つは記述,技術的勧告又は類似の規範文書(仏語では“norme”)という意味であり,もう一方は測定標準(仏語では“étalon”)というものである。

■注記 8
測定標準を指す用語としては,基本単位の値そのものを現示したものを指す“原器(prototype)”,計器及び実量器を指す“標準器”なども使用される。

■注記 9
計量法では,法定計量分野で特定計量器の検定又は定期検査に用いる測定標準を“基準器”と呼んでいる。

■注記 10
“測定標準”という用語は,他の計測ツール,例えば,“ソフトウェア測定標準”を意味するために用いることがある(ISO 5436-2 参照)

初めてこの定義を読んだ時、完全には理解できませんでした。皆様はどうでしょうか?色々と勉強した結果をご説明いたします。例と注記が多く読みづらいですが、簡単に言うと、測定に使われる標準・基準となるものです。日本語で標準、英語で standard ですが、注記 7 にあるように、科学技術の分野では少なくとも 2 つの意味があります。一つが、基準文書・規格文書のように規格として規定する文書です。広義では、測定器の精度や規格そのものなども含まれる場合があります。これはフランス語で”norme”といいます。もう一つが、物理的なハードウェアとして標準・基準となるものです。これをフランス語では” étalon”と言い、前者とは明確に区別しています。
ここでは、エタロンと明示されているため、後者の意味が適用されます。フランス、恐るべし。
標準・基準には量の値(不確かさを持つ)が表記されていなくてはなりません。そして『量の定義を現示したもの』でなくてはなりません。これの意味が分かりませんでした。私は、生まれて初めて『現示』という言葉を目にしました。不勉強。調べると『現示』には、次の意味があります。

  1. 神が人に表し示すこと。啓示。
  2. その時に示されている鉄道信号の指示。道路交通信号の表示。

益々、意味が分かりません。更に調べると計量学でのみ使用されている『現示』があります。
それは、実現や具現化することを表します。調べたのですが、何故こんな表現になったのかはわかりませんでした。神がお示しになったのかもしれません。冗談はさておき、実現・具現なら分かります。さらに原文では”realization”となっています。これも実現です。優しいことに『もっとも一般的な意味で用いている。』と記載されています。まあ、『現示』が一般的か?という話ですが、実現ということなら理解できます。ですので、ここでは『量』の定義を実現したものという意味で捉えてください。注記 3 にも記載されていますが、『現示』には 3 つの手順があります。
色々難しく記載されていますが、まとめると、「単位の定義や物理現象・実量器から色々やって、標準・基準として使えるようにした」って事です。ものすごく端折りましたが、そういう事です。
なお、実量器とは、分銅や物差しなど、使用している間は量の値を再現や供給できる装置のことです。大事なことは、『不確かさ』が必須という事、『量』の定義を実現していることです。『量』の定義は JIS Z 8103:2019 では、

201 量 (1.1 quantity)

現象,物体又は物質の性質であって,一つの数値と一つの参照基準の組合せとして表すことができる大きさをもつもの。
—略—
注記 2 参照基準(reference)としては,測定単位,測定手順,標準物質又はこれらの組合せがあり得る。

とされています。ですので、これを実現・具現化して、そこに不確かさがあれば、それは測定標準となります。『量』は、一つの数値と測定単位や測定手順、標準物質などを組み合わせて表されます。そこに『不確かさ』を付けると『測定標準』となるのです。
その『測定標準』によって『提供される測定不確かさを伴う量の値』を使って、『それに対応する指示値との不確かさを伴う関係を確立し』ます。つまり、『不確かさ』を伴った基準の値と、『不確かさ』が付与されるように計測を行った指示値との比較を行い記録します。指示値には当然、『不確かさ』が付与されています。これが『校正の』第一段階です。『不確かさ』の付与の仕方ですが、これがまた非常に異常にややこしく、また測定する『量の定義』によっては JIS 等で決められている場合もあるため、一概にこうだとは言えません。言いたいのですが、言えません。
気になる『不確かさ』の詳細ですが、次回以降に『不確かさと誤差』というテーマを設けたいと思っていますので、とりあえずは「バラつきを数値化したもの」としておきます。
ここではっきりしたのが、『不確かさ』が伴っていない指示値は、『校正』をした結果とは言えないという事です。少なくとも、JIS 及び ISO 上は言えません。これまで、一般的に行っていた校正は『校正』ではないという事です。非常に厳しい定義と言えます。ですが、まだここまでで第一段階です。第二段階があるのです。

それは、『第二段階で、この情報を用いて指示値から測定結果を得るための関係を確立する操作。』と定義されています。
まず、『第二段階で』と、分けているところから説明いたします。なぜ分ける必要があったのでしょうか?これは、対象が変わるためだと思われます。つまり、第一段階では、『測定標準』と『指示値』の関係について定義し、第二段階では、『指示値』と『測定結果』との関係を定義しています。一つの『校正』という行為で 3 つの対象の関係を定義しているため、段階としてわけて定義したのだろうと理解しました。
段階ですので、当然『第一段階』をクリアしないと『第二段階』にはたどり着けません。『第一段階』はすでに述べたように、これまでの『校正』では『校正』と呼べない厳しい定義となっています。『第二段階』はさらに厳しいものとなっています。それは、『この情報』(第一段階で得た情報。測定不確かさを伴った測定標準の値と不確かさを伴った指示値との関係。)を『用いて』、『指示値』(不確かさを伴った値)から『測定結果を得るための関係を確立する操作。』と定義されているからです。かなりややこしいです。まず、『測定結果』の説明を致します。

測定器に関してだけで言いますと、『校正』と混同してはいけません。要求事項を満たしているかどうかが必要ですので、ただのデータの比較だけでは検証とはなりません。所謂、精度が必要で、それによって合否を判断する必要があります。ですので、検査や点検が必要となります。
繰り返しますが、ただのデータの比較では、『校正』にも『検証』にもならず、不適合となる可能性があります。データの比較をして、それを精度などで合否の判断をして合格した場合のみ、要求事項を満たしていると言えます。不合格では、『検証』にはならず、ISO 9001 の不適合となってしまう可能性が高いのです。ただし、『校正』を行った場合は別です。『校正』には合否の概念がなく、それだけで 7.1.5.2 の要求を満たすためです。
ISO 9001:2015 の 7.1.5.2 の a)では、『校正若しくは検証、又はそれら両方』について記載されています。また、『定められた間隔で又は使用前に』とありますので、日付または期間が分かるようにする事が必要です。b)ではその識別についてです。これは、ラベルなどで『校正若しくは検証、又はそれら両方』が実施されたことをはっきりとわかる形で示すことを求めています。
c)では、(2000 版からも記載されていましたが、)測定器を安易に調整できないようにする事や破損や劣化防止をする事を求めています。当たり前と言えば当たり前なのですが、わざわざ定義しているところがミソで、ちゃんと対策しなさいということでしょう。さらに計測器が不合格や不適切な使用方法だった場合、それまでの測定結果を改めて評価しなければなりません。
その為、測定時のデータを保存することを求められることがあります。抜き取り検査や評価検査なら保存も楽なのですが、大量生産品となると、大量の測定データの保存や生産品との紐付けなど、ハードルがグッと上がります。ですので、使用前の検証(検査・点検)が重要となります。
具体的には日常点検です。これは客観性をもって行うことが測定値の信頼性を高めることになります。弊社はリークテストメーカーですので、漏れ検査に限って言えば、1 日 1 回以上の日常点検を推奨しています。あるユーザー様では全ての測定の前にデータの検証を行っている場合もありますが、生産数と生産品の価値にもよるかと思います。1 日 1 回の点検を行っていれば、最悪の場合、1 日分の損害で済みますが、全く行っていない場合などは…、考えるだけで恐ろしいですね。
さて、ここまで長々と ISO 9001 での『校正』について書いてきましたが、話がアチコチ行ってしまったので、少しまとめてみます。
JIS Z 8103:2019 に定義されています。

501 測定結果 (2.9 measurement result)

利用し得る全ての関連情報を伴った,測定対象量に結び付けられる量の値の集合。

■注記 1
測定結果は,一般に,ある値が他の値よりも測定対象量を表す量の値としてふさわしいことを示す,量の値の集合に関する“関連情報”を含んでいる。これは,確率密度関数(probability density function,PDF)の形で表現することがある。

■注記 2
一般に,測定結果は,単一の測定値及びその不確かさとして表現する。ある目的に対して不確かさが無視できると考えられる場合は,測定結果を単一の測定値として表現することがある。多くの分野で,これは測定結果を表現する最も一般的な方法である。

■注記 3
従来の文献では,測定結果は測定対象量に結び付けられる値として定義され,文脈に応じて,指示値,補正されない結果又は補正された結果を意味すると説明されていた。

一般的な測定結果とは、かなり違った印象を受けます。単純ないわゆる測定結果ではなく、『測定結果』には『不確かさ』が必要です。ただし、注記 2 にあるとおり、その『不確かさ』が無視できると考えられる場合(測定値の有効桁より十分に小さい『不確かさ』の桁の場合。)は、不確かさを伴わずに測定値だけで表現することがあります。ある目的を達成するために必要な『精確さ』をその測定値が満たしており、『不確かさ』がゼロであると考えても良いという事です。つまり、実際の『不確かさ』がゼロでなくても、その『精確さ』と比べれば十分に小さい場合です。
ここで大事なのは、「不確かさが無視できる測定結果」と「不確かさの無い測定結果」は全く違うという事です。「不確かさのない測定結果」はあり得ないのです。
測定結果には、『利用し得る全ての関連情報を伴』っています。これは、測定の目的や測定結果の利用の仕方によって変わってきます。例えば、トレーサビリティの確立のための測定結果であれば、そのトレーサビリティを説明するためのすべての情報が、測定結果には伴ってきます。参照標準器の情報、温湿度、気圧、測定場所など多岐に渡ります。また例えば、工程内検査の測定結果であれば、その工程に必要な情報です。シリアルナンバーや機械番号、ライン名、測定した時間などでしょう。必ずこれが必要だというものはありませんが、何を目的として測定を行い、その測定結果を何に利用するのかを明確にする必要はあるでしょう。それによって伴ってくる情報が変わるからです。ただし、無視できる場合を除いて、『不確かさ』は必須となります。

■注記 1
にでてくる『確率密度関数』は『不確かさ』のお話をする時にご説明させていただきます。ここでは割愛しますが、簡単に言うとある値が出る出やすさを関数式で表したものです。

■注記 3
では、従来の『測定結果』の説明です。『不確かさ』のない皆様のイメージされている測定結果の説明です。
ここまでで『測定結果』についてある程度ご理解頂けたでしょうか?不確かさの他、必要な情報の伴った測定値の集合が測定結果です。表現する時は、単一の測定値で表現することが多いです。『不確かさ』は必須ですが、無視できる場合もありますので、ご注意ください。

さて、用語の説明が終わりましたので話を『校正』に戻し、『この情報を用いて指示値から測定結果を得るための関係を確立する操作』を紐解いていきます。
第一段階では、『測定標準』から『指示値』に『不確かさ』を伴わせました。その『指示値』から今度は『測定結果』を得ます。当然『測定結果』には『不確かさ』が(他の必要な情報も)伴います。『不確かさ』が伴っていますので、そのまま単純に『指示値』から『測定結果』は得られません。その間には何らかの関係があります。不確かさを伴っていますので、まさにそれが関わっていて、それを明らかにする必要があります。どう関わっているかはその不確かさ次第なので一概には言えません。が、『不確かさ』を伴った『指示値』から、様々な必要な情報を伴った『測定結果』を得るために、その関係を明らかにし、その関係を『操作』して『測定結果』を得ます。
この『操作』が『校正』なのです。いやー、分かりにくい…。分かりますでしょうか?無理?ワカラナイ?私もです。では、数学的に説明してみましょう。

第 1 段階

「測定標準によって提供される不確かさを伴う量の値」を、標準の値x「それに対応する指示値」を、標準を測定した校正される測定器の指示値y「不確かさを伴う関係を確立する。」とは、例えば、関係式:y=f(x)と不確かさ u(x)を求めることです。
ここで、標準の値xは測定対象量であり、測定で知りたい量、すなわち測定結果の量と同じ次元をもち、量xで表されます。それに対応する指示値は量yです。
このように、第一段階では、値xである標準を測定し、量xと指示値yとの対応関係を求めます。

第 2 段階

「この情報を用いて、」の「この情報」とは、例えば、関係式 y=f(x)と不確かさ u(x)です。
「指示値から測定結果を得るための関係を確立する。」とは、指示値yを得たときに、測定で知りたい量、すなわち、『測定結果』の量xを求めるための関係を求めます。例えば、関係式 x=g(y)と不確かさ u(y)を求めます。ここまでが『校正』です。
さらに『校正』の後の段階として以下のことがあります。
実際の測定の場面で測定器の指示値yを得たときに、それを測定対象量の値xにするための手順が適用されます。例えば、
① 測定器の指示値が測定結果の量xとなるように測定器を調整して使用。
② 指示値yと測定結果xの対照表によって、測定結果xを求めること。
③ 指示値yから測定結果xを求める関係式を確立しておいて、測定の度に測定結果xを計算して、求めること。
などが挙げられます。
ただし、測定器の調整や対照表の作成などは、『校正』の一部とは考えていません。yからxを求めるための関係や関係式を確立するところまでを『校正』と考えています。

『校正』後の作業までを考えると、少し分かりやすくなりますでしょうか?どうでしょう?簡易的な図を描いてみました。

#TODO

如何でしょう?何となくご理解頂けましたでしょうか?

では次は、さらに具体的に例を使って説明いたします。
顧客依頼品(校正対象測定器)を、実用標準器を使って校正した場合の説明です。
第一段階で、(不確かさの伴う、トレーサビリティの取れた)実用標準器を使用して顧客依頼品を測定し、不確かさを伴う標準器の値と測定器の指示値との関係(比較結果)を確立します。第二段階では、その不確かさを伴う関係(比較結果)を使って、顧客依頼品の指示値に何らかの(補正などの)操作を行って、顧客依頼品の測定結果を得るための関係を確立します。その測定現場で実施する操作には、不確かさの記載された校正証明書の結果をもって器差補正することも含まれます。(操作を決めるのは依頼品の使用者です。)なお、校正証明書では、校正の結果(標準の値xを測定したときの測定器の指示値y)を、ある特定の点xでの結果、表、関係式などで示すことが多いです(注記 1 の通り)。
どのように校正結果を活かすかは、一般に測定器の使用者に任されており、使用者が測定の現場でどのような手順を取るかを決めています。その意味では、校正機関の立場では第 1 段階で求めた関係を校正証明書に記述することが多いです。使用者は、その関係をもとに第 2 段階で指示値yから測定結果xを求める関係を確立し、手順として定める場合が多いです。例えば、補正とか器差補正などです。注記 3 は、第 1 段階だけで校正と認識している場合が多いと考えられるために付記された注記です。
このような 2 段階での定義は、例えば、測定器を外部の校正機関で校正しても、その結果を活用せずにそのまま測定器を使うなど、校正結果を適用しない例があったため、xとyとの関係から、指示値yを求めたときに測定結果xを求める関係を明確にするという操作を強調した定義になっていると考えられます。

いかがでしょうか。『校正』を、校正機関などに依頼した場合の説明をさせて頂きました。本当の『校正』を実施しようとすると、かなり面倒くさいと思われたのではないでしょうか。ただの数値の比較で終わりではなく、指示値から『測定結果』までをしっかり見ていく、関係を確立する必要があるのです。『校正』の段階については、これまでの『校正』では不十分だという事で追加されたように感じます。切れ目のない数値の連鎖、トレーサビリティの連鎖ということを強く意識したものとなっていると思います。この数値、指示値、『測定結果』をどれだけ正確に表現するか、真値に近いものとして表現するかに必要な要素が『不確かさ』となります。『校正』という測定結果の信頼性を高める為には『不確かさ』は不可欠なのです。この『不確かさ』については、次回以降に書いてみたいと思います。

さて、今回は『校正』そのものを私なりに深堀してみました。『校正』について学んでいくと、真に『校正』を実施することの難しさを感じました。『校正』を見ていくと『校正』から試されているような、本当の意味で『校正』出来るか?を問われているような、そんな感覚を得ました。
校正をのぞく時、校正もまたこちらをのぞいているのです。

と、上手くまとまったところで今回のコラムは終了です。次回からは『不確かさ』について書いてみたいと思います。

ではまた、次回の講釈で。